The Twilight Zone / The Dawn / The Dusk

The Twilight Zone
 まあ、その、いろいろなことがあって、初めは険悪だった俺たちも普通に話せるようにはなってきていた。俺から話を振ることは少なく、ほとんどグランの質問に答えそこから会話に発展していくという形だったが、話ができることに変わりはないだろう。仲がいいとは言えないのかもしれないが。
今日俺はグランに見せたいものがあるんだと言われエイリア石の落ちたクレーターに来ていた。雨が降ったのはおとといのはずなのにクレーターの底には水溜まりができている。
クレーターを一望できる場所に腰を下ろした。グランは何も話さない。なんて話を切り出せばいいのだろう。何歳だとか、好きなものは何かとか、そんな他愛のない話はもうし尽くしてしまった。ああそうだ、クレーターの話をするべきだろう。グランは星が好きらしいし、ここに俺を誘ったのはグランだから、このクレーターのことだってたくさん知っているはずだ。
「風丸くんは宇宙人ネームは作らないのかい?」
話を切り出すタイミングを探していると唐突にグランが聞いてきた。
「宇宙人ネーム?」
 俺の素直な感想。宇宙人ネームってなんだ? 宇宙人の名前を作る? もしかして、グランは星だったりクレーターだったりに名前を付けているのだろうか。
「オレたちは宇宙から来たサッカーテロリストといっても地球人だからね。それぞれ宇宙人ネームを持っているのさ。まあ、ニックネームみたいなものかな」
ああ、そういうことか。その話ならグランから聞いたことがある。エイリア学園というのは簡単に言えば孤児院のことだと。そんな重い話をさらりと話すグランに驚いたっけ。そういえばグランの本当の名前知らないな。
「宇宙人ネームって言ってもな……。グランが付けてくれよ」
 グランだとかレーゼだとか、本物の宇宙人みたいな、聞いたことがない響きの名前を俺自身で考えられる気がしなかった。
「ええ? そうだなあ……。ウィンディなんてどうだい?風丸くんの名前からとったんだけど、安直かなあ」
 グランが苦笑いしながら言う。
「はは、俺らしいとは思うけど、うーん、もうちょっとかっこいいのがいいかな」
 グラン、ウルビダ、ネロ……達のかっこいい名前の横に並ぶウィンディが想像できなかった。ウィンディがかっこよくないってわけじゃないけど、英語でも何語でもない文字の並びが出るのかなあなんて思っていたものだから。
「ふふ、そうだね」
 グランは目を細めて笑った。そのあとにも何か続けてくるのかと思ったけど、彼は何も言わなかった。話を振ってくれたんだから何か続けないと。
「そういえばグランも地球人なんだよな、本名はなんていうんだ?」
「オレの名前かあ……。」
グランはそれきり黙ってしまった。腕を後ろにやって重心を腕に預けている。上を向いた顎が空を見ていた。
もしかして聞いてはいけないことを聞いてしまっただろうか。きっとそうだ。彼と俺は今ここにいる理由が違う。俺には言えない事情だってあるだろう。聞かなければよかった。俺はいつもグランと話すときに気を使ってしまう。もっと気を使わずに話せたら、こんなに考えすぎて空回ることもないかもしれないのに。
沈黙に困っているとグランがゆっくりと立ち上がった。怒らせてしまっただろうか。
グランが目の前にある大きなクレーターを見つめながら口を開いた。

 

The Dawn
「本当は教えちゃダメなんだけど、円堂くんも知ってるし言ってもいいかな。……基山ヒロトっていうんだ。父さんが付けてくれた名前」
「へえ、グランらしい名前だなって思うよ」
 そう言ってはっとした。父さん。グランは、ヒロトは孤児だ。父さんとは死別か、それとも。
「そうかい? ありがとう。」
グランはにこにこしている。気にしていないようでほっとした。いや、俺の失言に気を使ってくれたのか。
「それでね、風丸くん」
夜の淵が曖昧になり夜空の裾が明るくなってきている。見上げていた星もだんだん薄くなってきていた。
「なんだ?」
「オレたちは今こうやって研究所にいるけど、いつかはこの生活に終わりがくるんだ。雷門だってどんどん強くなってきている」
「なんだよ……雷門の話はやめてくれって」
「風丸くん」
 ヒロトがこっちに向き直り真剣なまなざしで俺を見つめる。朝日が昇ってきていた。水溜まりがきらきらと光を反射している。
「オレ達、この後どうなるのかな。離れ離れになるのかな」
「はは、それは……嫌だなあ」
 乾いた笑いと本心がこぼれた。ヒロトと話すときはほとんど向こうが話しかけてきたし、俺は気を使ってしまうけれど、それでも一緒にいて心地よかった。ヒロトといるときは落ち着いていられたし、自分自身を見つめることができた。
ヒロトがふっとやわらかく微笑んだと同時に太陽が姿を見せた。顔がほんのりと暖かい。太陽はあんなに遠くにあるのに、こんなにも暖かいものだったのか。
「オレも一緒だよ。離れ離れになったらオレも探すからさ、風丸くんも俺のこと、基山ヒロトのこと、探してほしいな」

 

The Sunset
「秘密。オレばっかり風丸くん風丸くんって呼んでるけど」
 グランがこちらを向いて笑う。日が傾き始めていた。
「また今度教えるよ。この戦いの後、オレたちがどうなったとしても、きっとオレたちはもう一度会えると思うからね」
 グランの言葉は急に俺を現実に引き戻した。
「そっか、戦いの後が来るのか。家には帰りたくないな。あいつらに会いたくない」
半分暗く、半分明るくなったグランを見てなんだか涙が出そうになってきた。俺もきっと半分こになっているのだろう。
「オレもこの後のことは考えたくないなあ。考えられないってのもあるかな。だからさ」
 グランが一言間を置いた。俺を見るグランのターコイズの瞳が宇宙の果てに見えた。
「先のことが考えられるようになるまで一緒にいよう」